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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)640号 判決

上告人(原告・被控訴人) 後藤武司

被上告人(被告・控訴人) 石川町農業委員会

補助参加人 青森県農業委員会

訴訟代理人 高杉正秋

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差戻す。

理由

上告理由について

原判決は、上告人は本件(イ)の田地の自創法三条による買収計画については法定の期間内に町農地委員会に異議の申立をしないで、買収計画の公告後五カ月以上を経てから、いきなり県農地委員会に訴願をした事実を認定し、右訴願は、(一)適法な異議を経ていない。(二)法定期間経過後であるから不適法である。従つてたとえ、県農地委員会において右訴願についてこれを不適法として却下しないで、その内容を審査し実体上の裁決をしたとしても、右裁決は、行政事件訴訟特例法五条四項にいわゆる「処分につき訴願の裁決を経た場合」にあたらないから、本件買収計画の取消変更を求める本訴は不適法であるとして、本訴を却下したのである。

しかしながら、(一)自創法七条のごとく、買収計画に対し異議の申立を許し、さらに右異議に対する市町村農地委員会の決定に対し訴願を許す場合において、適法な異議の申立をしないで、いきなり都道府県農地委員会に訴願したとしても、訴願庁においてその訴願を受理し、これを不適法として却下することなく、その実体について裁決を与えたときは、その上級行政官庁たる訴願庁の裁決を以て行政特例法五条四項にいわゆる「訴願の裁決」にあたるものと解すべきである。ただし異議、訴願は、いずれも行政部内の救済手続であつて、訴願は異議の決定を不可欠の前提とするものと解すべきではないのみならず右の両者を経由した後でなければ出訴を許さないとする法意は、主として、行政部内における上級庁である訴願庁の意思決定を経るのでなければ出訴を許さないとするにあるものと解すべきであるから、すでに上級庁である訴願庁において、訴願を受理して裁決をした以上、行政特例法二条の関係においては、異議を経なかつたという瑕疵は、すでに治癒されたものと解するのが相当である。(二)訴願が法定の期間経過後に提起せられた場合でも訴願を受けた行政庁において宥恕すべき事由ありと認めたときは、これを受理することを得ることは、訴願法八条三項の規定するところであつて、本件期間後の訴願についても訴願庁たる県農地委員会は、これを受理して、実体につき裁決している以上、同委員会において、宥恕すべき事情ありとみとめたものと解するのが相当であり、本件訴願は買収計画公告の日から約五カ月後になされているのであるが、右宥恕を不相当と認むべき特段の事情のみとめられない本件においては、右期間経過後の申立であることは適法に宥恕せられたものとみとめるのが相当である。とすれば、本件訴願裁決を以て、前示、(一)(二)の事由によつて不適法とした原判決は如上の点において、法令の解釈を誤つたものといわなければならない。従つて原判決が右訴願裁決の不適法なことを前提として、本訴を却下したことも、また、違法であつて、この点において趣旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて民訴四〇七条により全裁判官一致の意見を以て主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告理由

一、被上告人は、上告人所有の青森県南津軽郡石川町大字八幡館字沢田六十三番地一号田二十七歩を昭和二十三年七月三日自作農創設特別措置法第三条第一項第三号所定の小作地一町三反歩の超過田として買収計画を樹立しこれを公告したが、それは、(イ)右買収計画が樹てられた当時全然水田ではなかつた、(ロ)また右買収計画当時石川町所在の上告人の賃貸農地は九反一畝十一歩であつて、制限面積一町三反歩に三反八畝十九歩不足しているから超過田として買収計画を樹てることはできないとの理由で被上告人に対し異議の申立をしないで直接昭和二十三年十月十二日青森県農地委員会に訴願をしたが棄却され、その裁決書が二十四年五月四日上告人に到達したので同月二十三日青森地方裁判所にその買収計画決定の取消を求めたのである。(第一原審判決事実摘示参照)

二、然るに原審判決は、(1) 上告人は買収計画につき法定の期間内に町農地委員会に異議の申立をしないで買収計画の公告後五カ月以上を経てからいきなり県農地委員会に訴願したのであるからこの訴願は不適法である。従つて右買収計画の取消を求める本訴は結局適法な異議訴願を経ないで提起されたものである、(2) しかも適法な異議訴願を経なかつたことにつき正当な事由の存することはこれを認めるに足る資料はないのみならず法定期間経過後の訴願又は右のように異議の段階を経ないでなされた訴願など本来不適法な訴願について裁判があつたにしてもその裁決は行政事件訴訟特例法第五条第四項の「処分につき訴願の裁決を経た場合」にあたらないものと解すべきであるから前記買収計画の取消変更を求める訴の出訴期間は前示裁決の日にかかわることなく処分のあつた日から進行するものといわざるを得ない。本訴の提起されたのは右買収計画公告の日から一年以上を過ぎた昭和二十四年五月二十三日であるから本件二十七坪の田地の買収計画の取消を求める本訴は不適法であるとして本件の訴を却下した。(原審判決理由第一)

三、然しながら何人でも行政庁の違法な処分によつて権利を侵害されまたは侵害される虞れのあつた場合には裁判所にその違法処分の取消又は変更の訴を提起することができる。ただ行政事件訴訟特例法はその違法なる処分に対して法令の規定により訴願審査の請求異議の申立(以下単に訴願という)のできる場合には、これに対する裁決決定その他の処分(以下単に裁決という)を経た後でなければこれを提起することができないと規定してある(同法第二条)。又同法には処分につき訴願の裁決を経た場合には訴願の裁決のあつたことを知つた日又は訴願の裁決の日から六カ月以内に訴を提起しなければならないと規定してある(同法第五条第四項)。その以外には行政庁の違法な処分によつてその取消又は変更の訴を提起する条件はない。

そして上告人は被上告人の田地買収計画に対して所有者として一項に述べたように昭和二十三年十月十二日青森県農地委員会に訴願をしたが棄却されその裁決書が二十四年五月四日上告人に到着したので同月二十三日青森地方裁判所にその取消を求めたのであつて前記訴を提起する条件は満されており本訴提起については何等違法の点はない。原判決は、全く法律の解決を誤つた違法の判決であつて破毀を免れない。

以上

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